……伯爵戦争。
うちには、ひどく、ひどく意味のあるものになるやろね。
だって、あんなことになってしもうたし。
以下、雑文。
ちょっと痛々しいかもしれへんから、続きで。
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がばり、と姫乃は身体を起こした。と、同時に身体中に走る痛み。
「あ……」
生きている。
身体中に包帯が巻かれているけれど、生きている。
「……みんな、は」
ふるえる唇が、そう言葉を紡ぐ。
ボロボロになった身体。薄れゆく意識の中で見た、邪悪な笑み。
――伯爵、と『それ』は名乗った。
圧倒的な存在感を持つ、最強にして最悪の吸血鬼、伯爵。その存在は、たった一人で――一つの能力者集団を壊滅に追いやった。
眼を閉じると思いだすのは、赤い血に染まった白い服の集団。本人達はフリッカーダイヤと名乗ったその集団。
けれど、ほとんどのものが、あの一瞬で命を絶たれた。拠点としていた歩道橋はあっけなく崩落し、百人もの死者が出てしまう大惨事を引き起こしてしまった。
涙がこぼれた。
その圧倒的な存在は、思いだすだけでも身体ががたがたと震えてしまう。
周囲を見回すと、そこは病院で。個室の病室で、姫乃はひとり、ベッドに横たわっている。
そこへ、看護師がひとり入ってきた。
「一条さん、目を覚ましたんですね」
鎌倉市内にある病院だった。どうやら仲間のひとりが何とかしてマヨイガにたどり着き、この惨状を報告してくれたらしい。銀誓館と協力関係にあるその病院は、能力者のための治療施設ともなっているのは、姫乃も知っていた。
「……みんなは?」
うつろな声、うつろな瞳で問いかける。一瞬看護師の顔がこわばった。それでも、と、看護師はゆっくり伝える。
「……一人、亡くなりました」
呆然とした。最初はその言葉の意味が、わからなかった。
死者を出すまいと思っていたのに。
仲間の死を、すぐには受け入れられず。
でも涙がどんどん溢れて。
「嫌……いや、いや、いやああああっ!!」
そう叫んで、姫乃は満足に動かせない体を、それでもぎりぎりと動かす。ベッドがギシギシと嫌な音を立てた。
「辛いよね、苦しいよね……泣いていいんです。泣いて、泣いて、いっぱい泣いて。それをバネにして、もっと強く」
「……ッ」
姫乃はそう言われて、ぼんやりと天井を見た。白い、病院の天井。その白はあの白い服の少年少女を思い出させて――顔をそむける。
「まだ落ち着かないのは仕方ないと思います。……そうそう、お見舞いのお手紙、来てましたよ」
かわいらしい2通の封筒。それは彼女の友人からのものだった。
……涙を拭いながら、姫乃はその手紙をそっと読む。みんな、心から心配してくれていた。
「ああ、あと……これはとある方からの伝言です。十八日に、戦争だと」
「じゅうはちにち……」
その日には、身体の傷もきっと癒えていることだろう。
「……弔い合戦や……」
姫乃はそう呟いて。
そして、また深い眠りにおちた。
傷つきすぎたカラダ、そしてココロを癒すために。
そして彼女は、運命の糸を肌で感じる事になる。
わずかに救出されたフリッカーダイヤの存在を、知ることによって。
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